商品企画システム化への道(7)~2つの研究会でP7活用の拡大

2つの大きな研究活動

2000年にP7実践シリーズの3冊「はやわかり編」「よくわかる編」「すぐできる編」を発刊し、1996年にExcelアドインソフトPLANPARTNERを発表、その後しばらくは多方面への応用に関心を寄せました。まだまだ事例が少ないので、成功事例を作り出すことが必要でした。

ゼミ生と企業との産学協同研究を毎年数社活発に行いながら、同時に大きな研究会活動を2つ実施しました。

1.全産業への顧客価値創造の展開(顧客価値創造部会(2001年~2004年))

2.サービス産業への展開(サービス産業における顧客価値創造研究会(2007年~2015年))

それぞれについて、お話しします。

   

全産業への顧客価値創造の展開(顧客価値創造部会(2001年~2004年))

まず一つ目の研究会、「1.全産業への顧客価値創造の展開(顧客価値創造部会(2001年~2004年))」についてです。

2001年から3年の時限付きで日本の産業再生を目指して日科技連(日本科学技術連盟)や日本品質管理学会、社会経済性生産本部、日本能率協会など6団体の協力の下で組織横断的に作られた大がかりな研究組織「日本ものづくり・人づくり質革新機構(JOQI)」の中に「顧客価値創造部会」が創設され、産学連携で商品企画の研究に入りました。

    

     

この機構には新商品開発、生産プロセス革新、顧客価値創造、自己診断法開発、経営幹部づくり、クオリティ専門家づくり、職場第一線人づくりの7部会が創設され、各々数名のメンバーが定期的に研究会を開催し、年1回の総会で成果を披露し合いました。「新商品開発」部会は主に開発面を、私が部会長となった「顧客価値創造」部会は主に企画面を分担していました。このうち最も充実した成書を刊行したのが顧客価値創造部会であったと自負しています。

私達の狙いはBtoCをベースに開発されてきたP7がBtoB、サービス産業、1次産業に至るまで適用できることを立証し、その方法論の改良を進めることです。

多くの企業の方が参加され、4つのWG(ワーキング・グループ)が分担して各々の得意分野を調査し、事例を集め(取材・執筆を含む)考察を進めました。

JOQIが解散となる2004年にはP7の解説と各分野での事例24編を蒐集した430ページに及ぶ分厚い「顧客価値創造ハンドブック~製造業からサービス業・農業まで 感動を創造するシステム」を日科技連出版から上梓し、多くの影響を及ぼすことができたと思っています。編著者の私の緒言は今自分で読んでも、胸を熱くします。

   

    

本書で提示する、新しいシステマティックな方法論は消費財以外ではまだ十分に検証されたわけではないことはお断りしておきます。筆者らが94年にP7(商品企画七つ道具)を提唱した折りも、誰もその有効性を検証できていなかったし、産業界からは疑問視する声も出ていました(成功する確信は持っていましたが)。日本の学者の多くは、欧米追随で独自提案力に乏しいし、多くの産業人もまた成功した事実がないと新提案を取り入れません。

このような状況の中で、「批判するよりは批判される立場に立ち」、敢えて火中の栗を拾う方針でやってきました。現在は大きく花が開き、あらゆるタイプの消費財と一部の生産財で十分に検証され、企業業績向上に貢献しています。現実は後から筆者らに追随してきたのです。したがって本書の内容も現実の産業界よりだいぶ先を読んでいます。

「仮説」と「確信」と「検証」の間にはそれぞれ距離があります。本書では全産業において確信レベルには到達しています。しかし、検証レベルに到達するのを待っていたら日本経済が停滞するのは明らかです。学問的な実証の前に本書を活用した顧客価値創造のイノベーションが全国各地で巻き起こり、多数の成功事例による検証が進行しました。

   

以下の左がこの部会のイメージ図、右が出版した顧客価値創造ハンドブックです。

   

   

左図で「P7第2パターン」(ピンクエリアの縦文字)とは現在のNeo P7の基になった流れで、先にアイデアを充分に多数創出しておいて、検証プロセスに乗せる、という発想です。これは後に2013年の「Neo P7」に繋がりました。

端的にまとめると、結論は以下の様になります。
・P7は全ての産業分野で応用可能な、汎用的かつシステマティックな方法論です。
・ただし、各分野・商品で微妙な留意点、相違点があるので流れや使いどころは勘案すべきです。
・サービス産業に関してはP7を用いた事例が極めて少数で、製造業と比べると独自の特色が強いため、更にきめ細かな研究が必要です。

    

サービス産業への展開(サービス産業における顧客価値創造研究会(2007年~2015年))

次に二つ目の大きな研究会「2.サービス産業への展開(サービス産業における顧客価値創造研究会(2007年~2015年))」についてお話しします。

わが国最大の産業であるサービス産業での顧客価値創造(=商品企画)はどうあるべきか、という大がかりなテーマに挑戦して日本品質管理学会内の研究会で9年間もの長期にわたり、様々な研究活動をして来ました。

元々サービス産業は人的要素が強く、生産性が低いとされており、しっかりとした科学的研究成果にも乏しかったのですが、近年マーケティング系、マーケティング・サイエンス系の研究成果が増えてきていました。

ただし、それでも商品企画に関する意欲的成果がないため、「顧客価値創造部会」と同様に「批判するよりは批判される立場に立つ」「産業界は後からついて来るはず」という意気込みでこの研究会を創設して取り組みを開始しました。

<主な実施内容>

  1. 文献報告・議論
  2. 実態調査
  3. 事例研究
  4. 実験研究
  5. 産学協同研究

それぞれかいつまんでご説明します。

   

①サービス産業に関する文献報告・議論

サービス、サービス産業に関する文献をメンバー全員で分担して報告、議論しました。ただし、「サービス企画」に関する文献は探してもほとんどありませんでした。

②サービス産業に関する実態調査

サービス産業での商品企画の実態を調べる全国的調査とその分析の実施(2008年、2010年の2回実施)。特に自社での商品企画成功度を評価してもらい、その要因分析を行いモデル化したことは画期的でした。

この2回にわたる調査での主要な分析結果は、次のようでした。

【1】サービス企画の成功と人的要素(いわゆるホスピタリティ、顧客への配慮など)は勿論関連性があります。

【2】ある程度成功度が上がると装置的要素(設備の良さなど)の充実が重要です。まず良いサービスで顧客を惹き付けファンを増やし、次に心地良い環境・設備などを充実させて更に顧客を呼び込むということです。

【3】サービス企画の成功には顧客満足と従業員満足が関連します。顧客は当然ですが、従業員が喜んで働く環境を(積極的に)作ることが重要なのです。

【4】サービス企画を成功させるには手順が場当たり的でなく明確に策定されており、特に仮説立案⇒検証するタイプの企画が良いようです。

③サービス産業に関する事例研究

事例研究(数件)。私が関与した美容院のサービス企画事例や他の研究者によるサービス企画に関連する数少ない研究事例の紹介と議論を行いました。

④サービス産業に関する実験研究

サービス・プロセスの実験的研究。
性質の異なる12種類のサービス
・レストラン
・国内旅行サービス
・鉄道
・コンサート 
などのサービス・プロセスを、時間軸で各々要素に分解し、仮説案を組み込んでコンジョイント分析の手法を用いて各要素の重要度と最適な(最も採用される)サービスの条件を抽出しました(下図)。

   

この実験研究から、多様なサービスにシステマティックなP7手法を応用して論理的に商品企画が可能なことが立証され、次の産学協同研究へと進みました。

⑤サービス産業に関する産学協同研究

2社と各々約2年くらいずつかけてじっくり産学協同研究を行いました。これは上記分析で明らかになった④を立証する上でも非常に有益でした(各々終了後に学会で発表)。

分析で明らかになった④:サービスサービス企画を成功させるには手順が場当たり的でなく明確に策定されており、特に仮説立案⇒検証するタイプの企画が良い。

    

高級自動車販売会社A社における新たな営業活動の企画

自動車購入の前、契約・納車時、購入後(アフターサービス)の3期間に分けて、多数の仮説を立案し、何が購入に結び付く有効な施策かを明らかにし、大変に喜ばれました。高額商品であるため、特に購入する前の様々な情報提供、購入後のきめ細かな訪問や配慮はユーザーの購入意向を揺さぶることが示唆されました。 

大手家電メーカーB社における新サービスの企画

家電メーカーのサービスというと購入後の修理くらいしか概念がなかったのですが、その枠を取り払い、上記A社の成功事例も参考にして多数(260件)の画期的サービス案を創造し、顧客の家電購入に結び付く施策(特にWebでの新サービス展開)を提案し、後に同社のホームページ上に実現していただきました。今では同業他社にも普及していますが、当時としては極めて画期的な内容です。

      

サービス産業におけるNeo P7導入の3ポイント

改めてサービスという商品を考えてみますと、モノと異なり、次のような特徴があります。

分野が非常に多岐にわたり、しかも「日本式おもてなし」のようなフィーリング的な要素と、飲食店・ホテル・映画館・イベント施設・交通機関のようにハード的な要素環境要素までもが商品への評価に複雑に影響します(サービス満点のレストランに入っても、周囲が騒がしかったり、トイレが古く汚いと印象は格段に落ちます)。

サービスという商品そのものは時系列的に進行し(例えばレストランでは予約⇒入店⇒メニュー決定⇒調理⇒食事⇒支払い⇒退店と時間を追って行われます)、しかも印象・感想・感動などが脳裡に残っても、モノのようにその後再度使われる訳ではなく、特に人的なサービスは保存できません。印象を悪くする要因はプロセスのどこにでもあり、ほんの一瞬の失敗が悪評価を招きます。大量に同一のものが生産され、反復使用されるモノと異なります

サービス産業での商品企画にはこのような背景への考慮が必要です。

そうは言っても、P7の基本的価値がゆらぐ訳ではない、ということは実際に多数回応用して良くわかりました。これ以外にもゼミや産学協同研究、別の研究団体でも試行してみましたが、どんな複雑な内容であっても、次のような多少の注意を払えば十分に効果を発揮できることがわかりました。

   

Neo P7導入ポイント1

人的なサービスは無形のものが多く、文章のみではわかりにくいので、仮説の説明をなるべく具体的にします。補助としてイラスト、写真などを用いるのは効果的ですが、それがイメージを歪曲して伝えることも多いので、十分に注意します。

Neo P7導入ポイント

人的要素と装置的要素は分離して扱わないと評価しにくいことが多いです。
<人的要素の例>
・店員の言葉遣い
・店員の態度や案内 等
<装置的要素の例>
・立地
・環境
・内装
・店内設備
・食器 等
ただし、最後のコンジョイント分析ではこれらの要素を一体化し、1つのサービスとみなして利用意向を尋ねます。

Neo P7導入ポイント

時間軸で区分して考える必要があるかもしれません。前記の自動車、家電のいずれもが「購入前」「購入後」で分離してサービス案を提案し、成功しました。
これはサービス特有の考え方です。モノの場合には必要ありません。

     

サービス産業への応用可能性は次回紹介する「Neo P7」に至って更に完璧な形に進化しました(乞ご期待)。

     

商品企画システム化への道シリーズ
(1)昔は「商品企画」≒「企画書」だった?
(2)ついにP7公表へ
(3)初めての産学協同研究
(4)P7で次々にヒット商品が誕生!「リコー・複写機」「パイオニア・ミニコンポステレオ」
(5)P7でヒット商品が誕生!「日産自動車・X-TRAIL」
(6)P7-2000とPLANPARTNERの発表
(7)2つの研究会でP7活用の拡大
(8)Neo P7とP7かんたんプランナーの発表
(9)P7事例集と新版・簡単プランナーの制作

   

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感動商品を生むためのメソッド『Neo P7』を正確に深く理解するためのカリキュラム構成です。講師は『Neo P7』開発者である神田 範明 名誉教授が担当し、丁寧にわかりやすくお伝えします!

      

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神田範明

一般社団法人 日本マーケティング・リテラシー協会 会長、成城大学 名誉教授
専門分野:商品企画、市場調査、経営統計学、品質管理。 1949年8月生まれ、東京工業大学工学部経営工学科卒、同大学院修了。 その後名古屋商科大学に勤務し、企業での商品開発に関する品質管理の体系化や学生指導の必要性から商品企画の世界に入りました。 1993年成城大学教授となってからは商品企画の手法を体系化した「商品企画七つ道具」を発表(1994年)、実践応用に邁進しながらも次々に手法の開発や改良に努め、神田ゼミを成城大学随一の存在に育て、有名企業との産学協同研究やコンサルティングに現在も休みなく奮闘しています。

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