商品企画システム化への道(4)~P7で次々にヒット商品が誕生!~

P7で次々にヒット商品が!

小林記録紙の「ポストdeシール」以降、1996年にリコーが独自にP7手法を活用して開発したコピー機imagio MF-200(超大ヒット商品に)、1998年パイオニアとの産学協同研究(同年に女性向きミニコンポステレオMDX-707として発売)、1997~1999年には日産自動車との産学協同研究(2000年にX-TRAILとして発売、大ヒット商品に)、1998年ブラザー工業と産学協同研究家庭用FAX(1999年にFAX-200(?)などとして発売)など、次々に製造業で大きなヒット商品が生まれ、これらを学会のシンポジウムや研究発表会で公表し、いよいよP7が産業界に大きな影響を与える状況になってきました。

その舞台裏をいくつかかいつまんでお話しましょう(差し支えのない範囲でエピソードも入れます)。
今回はリコーのコピー機とパイオニアのミニコンポの2例、次回は日産のSUVです。

*詳細は、神田編著「ヒットを生む商品企画七つ道具 第3巻・すぐできる編」(日科技連出版)をご覧下さい。

    

ヒット商品の舞台裏(1)リコー・複写機imagio MF-200

1996年の年末に近い頃でしょうか、リコー(株)の知己の方から驚くべき電話がありました。P7のコンジョイント分析のおかげでコピー機が大ヒット商品になった、というのです。
早速研究室に来ていただき、詳細を知って、またまたビックリ!

1996年8月に発売されたデジタルコピー機の草分け、リコーimagioMF-200は圧倒的な省スペース性(従来より40cmも幅が狭い)で超大ヒット商品となり、同社の社史にも「A3複合機で世界最小幅」と記述されています。

この商品の企画がスタートしたのは1994年ですが、同社の強みである中小企業オフィスでの使用実態を訪問して調べると「原稿サイズA3までコピーが必要だが、大きなコピー機は置き場所に困る」という現状が浮かび上がってきました。そこで企画担当者は、出てきたコピーを載せる(意外に大きい)排紙トレイをやめ、本体内にコピーを出すことを考えました。
しかし、この方式では構造上今までと違って裏向きにコピーが出てしまうため、いちいち中から取り出さないとチェックできません。その面倒さによるマイナスと幅が狭いことによるプラスの比較が難しいのです。営業部門からは「顧客の常識に反するのでリスクが大きい」と強く反対されたそうです。技術部門も内部構造が複雑になるため消極的でした。

     

      

このトレード・オフの困難な状況を見事に打破したのがP7第6の手法、「コンジョイント分析」で、私の著書がそのヒントを提供しました。元々、コンジョイント分析は品質管理でよく使われる「実験計画法」という手法と共通しており、リコーの品質管理部門にも詳しい方がおられたので、協業してコンジョイント分析を独自に実施されました。

その結果、「幅が狭いか、広いか」の影響度は「裏面が上で排出されるか、表面が上で排出されるか」や「価格が高いか安いか」やその他性能項目の影響度をはるかにしのぎ、ダントツでした。つまり、顧客は幅の狭い機種を圧倒的に望む、ということです。この結果で社内説得に成功し、技術開発に進むことができました。発売後は営業の方が「楽に売れすぎる」と危機感を抱くほどだった、とお聞きしました。

リコーはこの成功を基に、CDプレイヤー、デジカメ、FAXなど当時の多数の商品開発でコンジョイント分析を始めとするP7手法を活用し、大きな成果を収め、社内標準手法として確立しました。ちなみに商品企画担当者の昇進試験には私のテキストが使われました。

     

ヒット商品の舞台裏(2)パイオニア・ミニコンポステレオMDX-707

パイオニアは昔から名だたるオーディオメーカーで、スピーカーメーカーから始まり、80年代にステレオ分野でトップシェアを誇っていたのが90年代には低落傾向に見舞われ、98年初めには6位に甘んじていました。最大の原因は業界をリードするような新商品がなく、安閑としているうちに他社を追う姿勢になってしまったことです。

98年から私が入ってP7を用いた新商品企画を行いました。まずターゲットの選定に当たって、皆さんとディスカッションし、女性がこの業界で従来から無視されていて、マニアックで音にこだわる男性達を中心にしていたことから、敢えて女性をターゲットにし、「若い女性が喜んで選ぶ新商品」に狙いを定めました。

「女性が買ってくれない」のではなく、「女性が買いたくなる商品を創れば売れる」という仮説の基にスタートしましたが、この狙いは見事に的中し、早速翌99年に出したMDX-707、2000年に出した少し上の年齢を狙った後継機MDX-717が大ヒット商品となり、その他含めて5機種が続々とヒットし、2000年にはトップシェアに返り咲きました。

この女性市場開拓作戦はオーディオ業界に強い衝撃を与え、その後ソニー、パナソニック等も次々に女性向きコンポステレオを上市することになりました。

       

      

この商品企画の流れを下図に示します。

特にインパクトが大きかったのはグループインタビューで、同社の若い女性社員や神田ゼミ女子学生らへの多数回の聞き取りの結果、次のような女性ならではの有力な仮説が得られました。
・本格鑑賞ではなくBGM用に使うので、書棚などに入る、小サイズがいい。
・BGMなのできれいな音であればよく、重低音や超高音の再生は、いらない。
・角張ったデザインはNG。丸みを帯びた方がいい。
・淡いパステルカラー(特にブルー)がいい。気分が落ち着く。
・リモコンと本体の色・デザインは統一して欲しい。
・スピーカーをむき出しにする意味がわからない。スピーカーは見たくない。
音質よりも外見に対する意見が圧倒的で、特に最後の意見はスピーカーメーカーから発展した同社にとっては正に衝撃そのものでした(笑)。ついついスペック優先で高音質・高機能を競いたくなる技術者にとっては冷水を浴びせられる結果となりました。わずかに一矢報いたのは、世界初の「色変わりする液晶ディスプレイ」です。次々に色変わりするディスプレイの試作品を見せると、大きな歓声が上がりました。

これらの新たなコンセプトをアンケート調査~コンジョイント分析で定量的にも優位性を確認しましたが、営業部門からは懐疑的な意見が多く出て来ました。全くの新市場で、かなりの小型、まるでオモチャのような色変わりディスプレイ付き、となると特に男性の多い営業の方には理解できないモノだったようです。それでも多数のデータと分析結果が否定意見を圧倒しました。従来の常識では理解できなくとも「信用せざるを得ない」というのが結論です。

MDX-707は決して安い価格ではないのに、対前年比2倍にもなる圧倒的なヒット商品になりました。
若い女性に大いに歓迎されたのは言うまでもありません。

その後パイオニアは下図のような、P7を用いたシステマティックな商品企画を行い、次々とヒット商品を連発し、米国市場でも他社を圧倒する商品を上市し、「ニーズにきちんと応える」ことの重要性を十分に理解しました。

    

     

(次回・日産自動車「X-TRAIL」に続く)

     

商品企画システム化への道シリーズ
(1)昔は「商品企画」≒「企画書」だった?
(2)ついにP7公表へ
(3)初めての産学協同研究
(4)P7で次々にヒット商品が誕生!「リコー・複写機」「パイオニア・ミニコンポステレオ」
(5)P7でヒット商品が誕生!「日産自動車・X-TRAIL」

    

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神田範明

一般社団法人 日本マーケティング・リテラシー協会 会長、成城大学 名誉教授
専門分野:商品企画、市場調査、経営統計学、品質管理。 1949年8月生まれ、東京工業大学工学部経営工学科卒、同大学院修了。 その後名古屋商科大学に勤務し、企業での商品開発に関する品質管理の体系化や学生指導の必要性から商品企画の世界に入りました。 1993年成城大学教授となってからは商品企画の手法を体系化した「商品企画七つ道具」を発表(1994年)、実践応用に邁進しながらも次々に手法の開発や改良に努め、神田ゼミを成城大学随一の存在に育て、有名企業との産学協同研究やコンサルティングに現在も休みなく奮闘しています。

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