目次
ヒアリングで聞いた困り事
「確実にヒット商品を生む、失敗のない方法論の樹立」を目指して、1991年、日本科学技術連盟内の研究会TRG(Total quality control Research Group)で商品企画WGを開始しました。
実は最初は協力してもらえるメンバーもなく、WGは何と、私ただ1人でした。仕方なく、1年間くらい内外の文献を集め、どんな手法が使われているか、問題点は何かを考えて、毎月の研究会で報告をしました。特に、「企業は実際に商品企画の何に困っているか?」が最も重要なポイントでしたが、これについてはどのような文献にも載っていませんでした。
やむなく、知己のメーカーやリサーチ会社数社を直接訪問してヒアリングを行いました。
- 商品企画開発のシステム(一般的なフロー)があるかどうか。
- あるとすると、どのような順序でどのような業務を行うか。
- 特定の調査・分析などの手法を用いているか。
- 実際に困る点、難しい点はどこか。
などを聞いて回りました。
これは後々非常に参考になりました。例えば
- A社(製造業)では
「プロジェクト毎にどう進めるかを議論して決めているが、リーダーの意向でコロコロ変わる。何か決定版が欲しい。」と語っていました。
- B社(製造業)では
「社内で議論して決めた立派な?開発フローを作ってあるが、その通りに(うまく)できたためしがなく、最近はそのフローも無視されている。」と苦笑していました。
- C社(製造業)では
「特に最後に案を決める際に本当に困っている。何か良い方法があったら今ここで教えて欲しい」と懇願されてしまいました。
- D社(調査、広告)では
「後でCMの契約を取るのが最も重要なので、市場調査はクライアントの意向に沿った結果を出す。」「購入予測は非常に難しい」「インタビューの結果で定性的に結論を出すと納得されやすい」と本音を語っていました。
- E社(調査)では
「アンケート調査では他社品との比較や改善点の把握などが多く、分析もせいぜいクロス集計止まりで、画期的な企画案の評価・分析依頼などは(ほぼ)ない」と淋しそうでした。
向かうべき道
これらのヒントから、私なりの向かうべき道が出てきました。
- 安定してどこでも使えるような、システマティックな方法論は(やはり)どこにも存在しない。早くそれを発表し、産業界に問いかけ、その後に改良すべきである。
- 特に企画最終段階での「提案の受容性」が数値化・客観化されないとメーカー(特に大企業)では安心して採用されない。これはC社以外でも多くの会社で懇願されたので、喫緊の課題である。
- アイデア創出は格別な手法は使われていないが(ブレインストーミングがほとんど)、同じメンバーが同じような考えで行うので、なかなか良いアイデアが浮かばない。もっと効率の良い手法が求められているのは確実である。
- 開発段階の手法として多くの大企業(メーカー)に既に普及しているQFD(品質機能展開)と上手に接続できるならば、採用・普及が早まる。
このようなことから、有力な手法を更に研究し、システマティックな流れを作り出すことが必要と思われました。
最初のP7!
1992年4月、第1回TRGワークショップ(非公開)が開催され、私はこれまでの情報や考察をまとめ、今後の研究推進を強く提言しました。これに呼応して大藤正氏(当時玉川大学)、長沢伸也氏(同亜細亜大学)、岡本眞一氏(同東京情報大学)の3名がWGに参加を表明し、分担して多数の手法を研究することができるようになりました。その年の秋には私から「商品企画七つ道具(P7)」として集約することを提案、幾多の議論を経て1993年4月には第2回TRGワークショップ(非公開)で次のような形で初めてP7を提案しました。
QC界にはQ7(QC七つ道具)、N7(新QC七つ道具)というツール集があり、かなり普及していたので、P7というネーミングは自然なものでした。
Pは勿論、Planningの頭文字です。
最初のP7は4つの大分類、7つの項目から成ります。
<企画の方向・目標の考察>
1. 方向付け(探す)
発想法Ⅰ類(属性連想法、ビジュアル・イメージ法などで新たな方向を自由な発想で導く)
<調査とその解析>
2. 調査(調べる)
MR(市場調査、消費者の意向や現状への評価を把握する)
3. 主要軸の把握(掴む)
因子分析(感性評価や購入基準等で調査対象者の構造を掴む)
4. 分類(分ける)
クラスター分析(因子の点数で対象者をクラスター分けして特徴を把握)
<コンセプト作成>
5. コンセプト案作成
発想法Ⅱ類(NM法、形態分析法、属性列挙法などでコンセプトを具体化)
6. コンセプトの実験と最適化
コンジョイント分析(実験計画法を応用して、要因の水準を振ってコンセプトを実験的に評価し、最適なコンセプトを発見)
<設計への展開>
7. コンセプトの具体化
QFD(品質機能展開、決定したコンセプトから具体的な品質企画(技術企画)を練る)
今考えると何とも危ない、余り整理されていない内容で、非公開だったのが幸いだったと思います。特に発想法を2分類して提示するなど、わかりにくい代物でした。
しかし、最後のコンジョイント分析とQFDは現在でも同じ位置にありますが、絶対的な自信がありました。特にコンジョイント分析は最終提案を客観的に決定し、しかも購買意欲を正確に数値化できるため、大変に貴重なものです。米国発の手法で、当時まだ一部の方にしか知られていませんでしたが、QCの有名な手法「実験計画法」を応用できるため、QCを学んだ方々にはすぐに共感していただけると、確信していました。
いよいよP7(Ver.2)を公表!
その後、今野勤氏(当時ヤマハ発動機)が参加され、更に熱い議論と探求を重ねました。1994年6月に第1回TRGシンポジウムを公開で開催し、いよいよ大勢の企業の方々を交えての発表となりました。「商品企画七つ道具(P7)」が世にお目見えする瞬間です。趣旨は同じですが、昨年とはガラリと変わり、大きく3分類、7項目としました。
<NEEDS>
1.ニーズの把握
グループ・インタビュー(消費者の意見からニーズを発見)
2.ニーズの検証
アンケート調査(1で得た仮説を定量的に検証)
3.商品空間の検討
ポジショニング分析(アンケートデータから商品間の位置を把握、マップにプロットして比較検討する。理想方向も抽出)
<CONCEPT>
4.コンセプト発想Ⅰ
発想チェックリスト(オズボーンのチェックリストによる、誰でもできる簡易発想法)
5.コンセプト発想Ⅱ
表形式発想法(じっくり型の2方法、組合わせ発想法(5W1Hの要素の組み合わせ)、アナロジー発想法)
6.コンセプトの評価
コンジョイント分析
<DESIGN>
7. 設計とのリンク
品質表(品質機能展開の最初のみ使用)
当日発表後、企業の方から多数の質問が寄せられました。強烈だったのは「うまく行くという保証はあるのか?活用事例は?学者の机上の空論に過ぎないのではないのか?」というものでした。「うーーーーん!」と唸った後の私の回答は、
「世界に例のない提案ですから、すみませんが実践事例はありません。私達は方法を考えるので、皆さんは実際にやってみて検証して下さい。互いに協力して改善して、まだ生まれたばかりのこのシステムを育てて行きましょう。」大きな拍手が湧きました。
その後
1995年11月、このP7システムはWG5人の共著の書「商品企画七つ道具~新商品開発のためのツール集~」として日科技連出版から出版され、同時に日本科学技術連盟で最初のセミナーも開催されて、幸いに多くの好評をいただきました。未完成であることは承知していましたが、何しろ未踏の地に道を拓くのですから、どんどん成功事例を出して、5年くらいで改訂版を出そう。」と思っていました。
(つづく)
商品企画システム化への道シリーズ
(1)昔は「商品企画」≒「企画書」だった?
(2)ついにP7公表へ
(3)初めての産学協同研究
(4)P7で次々にヒット商品が誕生!「リコー・複写機」「パイオニア・ミニコンポステレオ」
(5)P7でヒット商品が誕生!「日産自動車・X-TRAIL」
(6)P7-2000とPLANPARTNERの発表
(7)2つの研究会でP7活用の拡大
(8)Neo P7とP7かんたんプランナーの発表
(9)P7事例集と新版・簡単プランナーの制作
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神田範明
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