サービスの商品企画はこうすべき!(後編)

身の回りには形のある「モノ」と形のない「サービス」があります。

その形のない「サービス」をテーマにし、先日の前編では「製品とサービスの違い」や「製品とサービスの商品企画の違い」についてお話ししました。まだお読みになっていない方は、「前編」を先にお読みいただいてからこちらをお読みいただくと理解しやすいと思います。(前編はこちらから⇒)

今回「サービスの商品企画はこうすべき!(後編)」では、事例を交えてお話ししたいと思います。

サービスにおける商品企画とNeo P7の活用 知っておくべき、行なうべき、5ポイント

サービスにおいて「真似されにくい」独創的なヒットサービスを生み出すポイントをご説明します。

まず、企画プロセスを再現性あるものにするために採用すると良い企画法は、NeoP7(ネオピーナナ:新商品企画七つ道具)です。

✪採用するとよい企画法 Neo P7(ネオピーナナ) 企画を論理で攻めるワザ

新商品・新サービス・新規事業を系統的に企画することができるNeoP7システム(新・商品企画七つ道具)_日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)

✪サービス企画の成功度を高める工夫や努力をすべき 5ポイント

具体的に企画の際に工夫した方がよいポイントはa~eの5ポイントです。

a.画期的な仮説を大量に創出する

b.モノやシステムにも目を向ける

c.時系列の全体プロセスをサービスとして捉える

d.可視化、具体化して理解しやすくする

e.多項目、多数のデータの収集とクラスター分析の実施

それぞれどういうことか、順番にみていきましょう。

a.画期的な仮説を大量に創出する

簡単に思いつく程度のサービスは簡単に真似されてしまいます。

「えっ??」「すごい!!」

と思わせるレベルの仮説、他社では模倣し得ないような仮説を大量に創出することが必須です。

Neo P7が得意とする「仮説発掘法」または「アイデア発想法」を用いて最低100件は創出しましょう。勿論、量よりはむしろ質が重要ですから、必ずしも2つの方法を併用する必要はなく、優秀な仮説が創出できれば10件でも構いません。

b.モノやシステムにも目を向ける

Amazonやディズニーの成功はユーザーを喜ばす優れたサービスにモノを合わせ、巨大な「システム」を構築したところにあります。

Amazonは巨大な倉庫と物流に効率的なWebシステムを、ディズニーは壮大な「夢の国」に溢れんばかりのグッズ、コンテンツを用意し、ユーザーを喜ばす対人サービスを徹底させました。

いかに良いサービスを展開しても、貧弱な建物、設備(ハード)が伴わなければ夢は簡単に壊れてしまいます。

仮説を創出する段階では困難でも、最終のコンジョイント分析ではそれらを含めて構築して、総合的に「利用したいかどうか」を評価してもらうことです。

c.時系列の全体プロセスをサービスとして捉える

個々の細かなサービスのアイデアを時系列として積み重ね、その全体のプロセスをサービス仮説として検証することが最適です。

この際、枝分かれなどで組み合わせが多数発生しますので、ここでもコンジョイント分析を活用することを強くお勧めします。

後記の事例をご覧下さい。

d.可視化、具体化して理解しやすくする

製品とは異なり、イメージを理解しにくい、差異がわかりにくいのがサービスです。

例えばレストランのメニューで

① 数品のバラエティ豊かな前菜盛り合わせ
② 美味しそうなサラダ風前菜

と仮説を立てても、どちらが良いかはユーザーには判断できません。

イラストや写真でイメージを伝えるようにしましょう。幸いAIでの画像作成が楽にできるようになりましたので、活用すると良いでしょう。

ただし、イメージを狭く固定して植え付けてしまう危険がありますので、注意が必要です。その場合は、いくつかの異なる画像を組み合わせて共通のイメージとして提示するのが良いです。

下記は②の「美味しそうなサラダ風前菜」を3つの画像でイメージを伝える例です。 

(②美味しそうなサラダ風前菜 イラスト例)

e.多項目、多数のデータの収集とクラスター分析の実施

サービスの評価は個人間のばらつきが大きくなるので、なるべく多くの(10~20程度)項目で多面的に仮説を評価してもらいましょう。

アンケート調査、コンジョイント分析では最低200名以上のデータを集めて、クラスター分析を実施して最適なユーザー層を抽出しましょう(次の例を参照)。

サービス企画の実例:家電購入を促すための仕掛け作り

では、「サービス」企画の事例をご紹介します。

この事例は、日本品質管理学会・サービス産業における顧客価値創造研究会で大手家電メーカーA社と実施した協同研究で、拙著「失敗しない商品企画教えます」(小久保雄介共著、日科技連出版2019年)掲載の事例から引用しています。(詳細はそちらを参考にして下さい。)

研究の趣旨は、競争激化の中で良い家電を開発販売するのみでなく、ユーザーニーズを捉えたサービス活動をメーカー自らが実施することで、購入の促進を図ることです。

なお、メーカーA社としては「環境に貢献できるサービス」の創出を目標にしていました。

次項からNeoP7のプロセスに沿って企画を進めた内容をご説明します。

事例 家電購入を促すための仕掛け作り NeoP7(1)仮説発掘法

まず、ユーザーニーズから広く仮説を抽出するために、下記のような仮説発掘アンケートを研究会関係者(一般ユーザー)89名に実施し、263件もの仮説を得ました。

A社の関心事である「エコ活動」について尋ねる中から関連する潜在ニーズを発掘しようとしました。

事例 NeoP7 仮説発掘アンケート

会話形式で仮説発掘アンケートが進行し、さまざまな質問をしながら、エコに対して想起してもらい、最終的にエコサービスの仮説を出していきます。

通常のNeo P7の流れですと次にアイデア発想法を実施しますが、多数の良好な提案に恵まれ(研究会メンバーのアイデアも加え)、精査して以下のA~Uの21件の仮説案を選びました。

事例 NeoP7 抽出した仮説案

事例 家電購入を促すための仕掛け作り NeoP7(2)アンケート調査

精選した21件の仮説案を調査会社を用いて一般ユーザー500名(20代~60代、男女半々)に評価してもらい、以下のスネークプロットを得ました(総合評価3.0以上の6仮説のみ抜粋)。

仮説の内容にバラエティがあるため、かなり複雑な動きを示しています。

事例 NeoP7 スネークプロット

個別評価項目16項目と、総合評価項目2項目(スネークプロット右端2項目「買ってみたくなりそう」「利用したい」)の評価結果が上のスネークプロットです。

総合評価項目「買ってみたくなりそう」と「利用したい」の評価が他の仮説案より高い仮説案は、CとIであることがわかります。

事例 家電購入を促すための仕掛け作り NeoP7(3)ポジショニング分析

因子分析を行い、評価項目が16個(x1~x16)と多いので、下記のように4つの因子に集約しました。

事例 NeoP7 因子負荷量一覧

x1~x16まで16もの多い評価項目より4つに集約してニーズを確認する方がニーズを理解しやすいことがあります。

上表の場合、「実用性」、「企業イメージ(向上)」、「節約・環境(貢献)」、「楽しさ・豊かさ」と、ニーズを4つのまとまり(4因子)で捉えることができるようになりました。

4因子(ニーズの4つのまとまり)を用いて、次に、ポジショニングマップを全6通り作成しました。

下記に「因子1×因子2」、「因子2×因子3」を示します。

特に右下図「因子2×因子3」ではスネークプロット上位のC、Iが理想ベクトル(矢印)の方向にあり、ポジショニングマップ上でもCとIが良い仮説案であることがわかります。

事例 NeoP7 ポジショニングマップ

事例 家電購入を促すための仕掛け作り NeoP7(4)コンジョイント分析

「新サービス」を次のような家電購入前後の連続した一連のプロセスと考えます。

① Web等で調べ・考える
② 実機を見る・体験する
③ 購入後のイメージを描く
④ エコ・節電対策を考える
⑤ 購入後のサービスを受ける
⑥ 故障に対応する保守・修理のサービスを受ける

このうち①はメーカーWebサイトの新設・強化により対応することとし、②~⑥をコンジョイント分析の対象としました。

特に②はポジショニング等で高得点の仮説CまたはDでの「家電を家で体験する」システムを採用します。

⑥の故障対策は重要で、仮説J の「スマホによる故障診断」を用いて多様に企画できるので、コンジョイント分析に向けて、6つの水準(下図)を設定しました。

また、仮説I「独自ポイントシステム」は導入が十分ありうるので、別枠で固定しておきます。

事例 NeoP7 コンジョイント分析の属性・水準

これらを「直交表」に割り当て、378人のユーザー(スマホ使用、自宅(戸建てまたはマンション)所有に限定)の方に1人18通りの組み合わせ(18枚のコンジョイントカード)をそれぞれ5段階で評価していただきました。

この評価点が「新サービス」のコンセプト(企画仕様)になりますので、チームのメンバー皆でドキドキしながらコンジョイント分析を行いました。

アンケートの全回答者のデータをコンジョイント分析したところ、最適水準の組み合わせ(下図の赤丸印の項目の組み合わせ)でも利用意向の推定値は3.08と低く、良い評価結果は得られませんでした。

次に、評価点の高い層を抽出するために、コンジョイントカード18通りの評価点をクラスター分析にかけたところ、全体の19.0%(約2割)の層が高い評価をしてくれていることが判りました。

つまり、この2割の層が「新サービス」のメインターゲット層です。

どのような人たちかというと、

「家電に詳しく、太陽光発電やエコキュートなど普及率が低い家電も所有する傾向があり、スマホを熟知して節電意識が高く、戸建て住宅に住む20~39歳(男女不問)」

という人たちでした。

このクラスターでは利用意向の最適値は4.22と非常に高くなりました。

真のターゲットクラスターが判明することにより、Webサイト設計・広告・営業活動が容易になります。

事例 NeoP7 コンジョイント分析の結果(効用値)

事例 家電購入を促すための仕掛け作り NeoP7(5)最終企画案

最終企画案は以下の通りです。

購入前に受けられるサービス

① 購入前に商品を持ち帰り、一定期間試用できる
② アドバイザーが自宅を訪問してどんな商品を買ったらよいかのアドバイスをしてくれる

購入後に受けられるサービス

③ 現在の各家電にかかっている電気料金が分かる
④ サービスマンが、お客様の自宅に定期的に巡回し、要望に応じた購入後のメンテナンスをしてくれる(配線やファンのホコリ取りなど)
⑤ 故障を予測して自動的に機器のソフトウェアの アップデートをしてくれる
⑥ 家電の動作状態に問題があったときに、外出先でもスマホに知らせてくれる

さすがにすべての実現は困難でしたが、これらの一部は同社で実現されました。

サービスの商品企画はこうすべき! まとめ

(1) サービスは無形ですが、施設、設備なども重要なので、考慮に入れるべきです。

(2) サービスは時系列的なプロセスとして捉え、特にコンジョイント分析で最終的に評価すべきです。

(3) サービスは人が実施し、人が感覚的に評価するため、ばらつきが大きくなります。
   多項目、多人数で評価してもらい、クラスター分析で層別しましょう。

(4) サービスは独創的であっても特許を取りにくい短所があります。

(5) Neo P7で真似されないアイデアを大量に創出し、なるべく可視化・理解しやすくして絞り込み、コンジョイント分析やクラスター分析で仮説を検証して、最適なサービスを決定しましょう。

<後記>

いかがでしょうか?サービスは形がないから、主観的だから、真似されやすいから、などと言って逃げてはいけません。

Neo P7を用いて最高のサービスを企画してみましょう!

採用するとよい企画法 Neo P7(ネオピーナナ) 企画を論理で攻めるワザ

新商品・新サービス・新規事業を系統的に企画することができるNeoP7システム(新・商品企画七つ道具)_日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)

サービス産業の皆様は伝統的に文系出身の方が多く、「商品企画=アイデアの勝負」と考えておられる方が多数派ですよね。

そのような皆さんには、上記の実例は「晴天の霹靂」と映りましたよね。

率直に言って、「何だ、これは?ウチの企画と全然違う。面倒で、難しそうだな・・・・・」と思いませんでしたか?

この時代、

そんな発想だからこそ、負ける

のです!!

サービスもシステマティックに企画するべきなのです。

今こそ、Neo P7を用いて

  ◎ ユーザーを深掘して驚くような潜在ニーズを発見し
  ◎ 溢れんばかりの大量のアイデアを発想し
  ◎ ユーザーの仮説案評価を素晴らしいツールで分析し
  ◎ 最高にワクワクする感動サービスを決定する
  ◎ 数値化、客観化、見える化してトップが必ず認める

商品企画に切り替えましょう!

WAKU LABOではサービス、モノに限定せずあらゆる商品企画・開発の相談に応じています。

ちなみに私は約30年間、文系の大学生諸君を教え、日本一と言ってはばからない商品企画ゼミを運営し、年に4~6件もの産学協同企画をこなして来ました。文系出身の企画担当の方とも沢山お付き合いして来ました。ご心配は全く無用です。

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最高にお薦めしたいセミナーは、貴社内でリアルな商品企画テーマ(2つまで可能)を決め、貴社の数名の企画メンバーと私(必要なら他のプロフェッショナルメンバーも)とで手法の習得とリアルな実践を並行して行うやり方です。

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新商品企画/商品開発/新規事業企画開発のステップ_システマティックな商品企画法NeoP7を活用します_日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)

私は過去約110件もこの方式で商品企画を実行した膨大な実績があります。自動車、住宅、家電、飲食品、生活用品、化粧品、サービス、BtoB商品等々ほとんどの産業分野で、超グローバルメーカーから街の美容院まで実施例は枚挙にいとまがありません。

Neo P7習得と実践を両方行いますので数ヶ月(標準6ヶ月)を要しますが、必ず200件以上の仮説を創出し、最終商品は5段階で4.0以上の購入意向を実現します(必ず売れる企画案になる、ということです)。それが過去の実績です。

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神田範明

一般社団法人 日本マーケティング・リテラシー協会 会長、成城大学 名誉教授
専門分野:商品企画、市場調査、経営統計学、品質管理。 1949年8月生まれ、東京工業大学工学部経営工学科卒、同大学院修了。 その後名古屋商科大学に勤務し、企業での商品開発に関する品質管理の体系化や学生指導の必要性から商品企画の世界に入りました。 1993年成城大学教授となってからは商品企画の手法を体系化した「商品企画七つ道具」を発表(1994年)、実践応用に邁進しながらも次々に手法の開発や改良に努め、神田ゼミを成城大学随一の存在に育て、有名企業との産学協同研究やコンサルティングに現在も休みなく奮闘しています。

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