サービスの商品企画はこうすべき!(前編)

身の回りには形のある「モノ」と形のない「サービス」があります。

パソコンやスマホはモノですが、その中で動く「OS」や「アプリ」やショッピングサイトは「サービス」です。

今や日本のGDPの7割、就業人口でも7割はサービスを提供する「サービス産業」なのです。
経済産業省「サービス産業×生産性研究会」報告書:サービス生産性レポート2022年3月

そこで、サービスの商品企画について考えてみましょう。

今回は「サービスの商品企画はこうすべき!」の(前編)です。「サービス」と「製品」の違いを比較し「サービス」の特徴を理解した上で、ヒットするサービスを企画するためのポイントをおさえます。
そして、次回(後編)は、サービス企画の事例をご紹介しながら、サービス企画の理解を深めていただきたいと思っています。

それでは、サービスの商品企画について一緒に考えていきましょう。

「商品」という言葉について

その前に、誤解のないように、「商品」という言葉についてお話しておきます。

なぜか「商品」というと形のあるモノを連想してしまう方が多いですね。まあ、商品には「品」という文字が入っているのでやむを得ません。

一般的には「商品」は製造されたモノ(製品)とサービスの両方を含んだ概念です。

「旅行製品」とか「投資製品」なんて書いたら大笑いされますよね。でも、「旅行商品」「投資商品」はOKです。中にはご丁寧に「製品」にはサービスを含むと堂々と定義する方もいます(笑)。

ただし、商品は対価を求める(販売される)ことを目指します。対価を求めないモノやサービスは「商品」とは言いませんが、「製品」「サービス」の範囲には入ります(下記)。この稿は商品とは言わないサービスにも十分適用できますので、ご一読下さい。

なお、製造業でも1次産業でも、今や色々なサービス事業を活発に行っていますので、特に業種で区分することはしません。

サービスの企画は基本的に「製品」と同様の流れ(商品企画の系統的なやり方「Neo P7」)で実施できますが、いくつか異なる点を予め押さえておき、成功度を高める工夫や努力を行うことが望ましいです。

サービスと製品の違い

サービスの特徴とは何でしょうか?

製品と対比していくつか列挙してみましょう。

(1)サービスは無形、製品は有形

(2)サービスは主に対人、製品は非対人もあり

(3)サービスは時系列的な積み重ね、製品は一時的

(4)サービスは品質管理が難しい、製品は品質管理が容易

(5)サービスは独創的でも、特許が取りにくい

(1)~(5)それぞれについて順に具体的にみていきましょう。

(1)サービスは無形、製品は有形

「サービスは無形、製品は有形」これは一般的に良く言われる区分ですが、実はそう単純ではありません。

例えばホテルは典型的なサービス産業です。「ハード」と「ソフト」、2つの側面を持っています。

ホテルにおける「ハード」の側面

物、部屋、レストラン、ロビー、各種設備・備品等の有形のモノ

ホテルにおける「ソフト」の側面

スタッフによる清掃、案内、食事提供、会計等の無形のサービス

「ソフト」のみをサービスと見なしてはいけません。現実は「ハード」と「ソフト」、つまり有形+無形のトータルでユーザーの評価、満足度、リピート率が決まります。

例えば皆さんはホテルに着いて、

① 優雅な外観、きれいなロビーに感動し

② 案内スタッフやフロントの上品で親切な対応を快く感じ

③ 部屋に入ると、広くて隅々まできれいで備品もしっかりしていることで「ああ、いい部屋だ」と思い

④ レストランに行くとそのメニューの豊富さ、味の良さ、スタッフのきびきびとした応対の良さなどに感心して

「このホテルはいいな、また来たい」と思いますね。
①~④のどれが欠けても「このホテルは良くない」と感じますね。

①と③はホテルのハード的な部分(モノ)、②と④はソフト的な部分(サービス)です。企画する場合には、ハードもソフトも両方考えねばなりません。内容にもよりますが、ハードの方がソフトよりウェイトが大きいこともしばしばあります。

明確には見えなくとも、ネットショッピングでも通信のための設備、きれいな画像を作るための装置、在庫確保のための倉庫が必要で、単にアプリを作って公開すれば良いなどという簡単な話ではありません。

(2)サービスは主に対人、製品は非対人もあり

サービスは基本的に人に対して行います。

清掃、補修など建物やモノに対して行うサービスや企業・団体・行政機関向けサービスも勿論ありますが、人がメリットを受け、人が評価する部分が多いです。

製品は必ずしもそうではなく、材料、部品、道具、機械類など、モノに対して貢献する場合もたくさんありますね。

対人サービスとなると、製品のように細かく客観的に評価しにくく、主観的であり、当然評価のばらつきも大きくなることは留意せねばなりません。

(3)サービスは品質管理が難しい、製品は品質管理が容易

(2)とも関連しますが、サービスは人が提供するため、提供者の特性や性質によって質(レベル)が違います。

ユーザーも感覚的に主観で受け止めますから、同じような設備や道具を使っても感動レベルから大不満まで色々な評価となり、管理が難しいものです(グルメサイトでの店の口コミ評価は非常にばらつきが大きいことで明らかですね)。

企業は標準化すべく、マニュアルを作り、教育を行いますが、工場での品質管理のようにきちんと揃えるわけにはいきません。サービスがロボット化されてきて、AIがユーザーに最適なものを提供するようになりつつありますが、モノに比べてはまだまだ困難です。

これらのばらつきに対しては次のような統計的手段で対処しましょう。

●多数の評価項目を用いる

多数の評価項目を用い、多数のデータを収集することで、ばらつきの状況を正確に把握しましょう。

●「クラスター分析」を活用する

「クラスター分析」を活用してユーザーを層別すると、特定のクラスターの内部では平均が高く、ばらつきが少ないことがあります。このような「優良ユーザー」を発見すると企画しやすくなります。

(4)サービスは時系列的な積み重ね、製品は一時的

サービスは開始から終了までの時間的な積み重ね(シリーズ)で感動を与えますが、製品は企画段階で感動を作り込み、購入と同時にユーザーが理解します(使ってみて良否の印象が変わることはありますが、それも当初から企画の中に入れ込むべきです)。

サービスは、前述(1)の項の「ホテルの例」①~④のように時系列的に実現されて行きますから、サービスの開始から終了までの時間的な積み重ねで感動を与えることを考慮に入れるべきです。

更に、下記Aのように瞬時に終わるサービスもあれば、いくつかの「行程」を経るサービス、Dのようにユーザーの選択によって枝分かれや変更も想定できるサービスなど、プロセスは多岐にわたります。まず、考えるサービスのパターンを構造化・見える化し(複数でもOK)、各パターンに即したアイデア・仮説を創出することをお勧めします。

サービスプロセスのパターン例_日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)作成

(5)サービスは独創的でも、特許が取りにくい

特許とは「産業上利用することができる発明(=自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの)で「新規性」と「進歩性」のあるもの」と定義されています。

「自然法則」とは、自然界で経験的に是とされている科学的法則のことです。精神活動・純然たる学問上の法則・人為的な取決め(スポーツのルールなど)は「自然法則」から除外されます。

「技術的思想」とは、実施可能性・反復可能性がある手段に関するアイデア(手順の流れ)のことです。当該技術分野で平均的水準にある技術者が、そのアイデアを実施すれば、同じ結果に到達し得ることが必要とされます。

従って、特別なサービスの仕方、心からのおもてなし、画期的な対応法など、多くのサービスはいくら感動を与えたとしても、特許の対象にはなりません。

つまり、サービスは独創的であっても真似されやすく、知的財産権になりにくいのです。ただし、技術的に優れた工夫(主に電子的な)がある場合は「ビジネスモデル特許」になる可能性はあります。ビジネスモデルそのものは特許になりません。

参考:契約ウォッチ編集部HPライトハウス国際特許事務所HP

根本的には、「真似されにくい(真似できない)」サービスを創出することに尽きます。

サービスにおける商品企画とNeo P7の活用 知っておくべき、行なうべき、5ポイント

以上を踏まえて、サービスにおいて「真似されにくい」独創的なヒットサービスを生み出すポイントをご説明します。

Neo P7(新・商品企画七つ道具)(下図)を活用して、a~eの5ポイントをおさえて企画しましょう。

✪採用するとよい企画法 Neo P7(ネオピーナナ) 企画を論理で攻めるワザ

新商品・新サービス・新規事業を系統的に企画することができるNeoP7システム(新・商品企画七つ道具)_日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)

✪ヒットするサービスを企画するために 知っておくべき、行なうべき 5ポイント

サービス企画の成功度を高める工夫や努力をすべきことは下記の5ポイントです。

a.画期的な仮説を大量に創出する

b.モノやシステムにも目を向ける

c.時系列の全体プロセスをサービスとして捉える

d.可視化、具体化して理解しやすくする

e.多項目、多数のデータの収集とクラスター分析の実施

以上、(前編)はここまでです。

「サービス」について、あえて「製品」と「サービス」を比較することによって違いがわかり「サービス」の特徴をつかめましたね。その特徴を踏まえると、サービス企画の成功度を高めるためには、最後の項で挙げたa~eの5ポイントを工夫したり努力して実施する必要があることも納得いただけるのではないかと思います。

次回の「サービスの商品企画はこうすべき!(後編)」では、

  • 上記5ポイントa~eのそれぞれについて具体的に解説します。また、
  • サービス企画の実例をご紹介し、
  • サービス企画の鍵となるポイントを総まとめします。

サービスの商品企画はこうすべき!(後編)はこちら⇒

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神田範明

一般社団法人 日本マーケティング・リテラシー協会 会長、成城大学 名誉教授
専門分野:商品企画、市場調査、経営統計学、品質管理。 1949年8月生まれ、東京工業大学工学部経営工学科卒、同大学院修了。 その後名古屋商科大学に勤務し、企業での商品開発に関する品質管理の体系化や学生指導の必要性から商品企画の世界に入りました。 1993年成城大学教授となってからは商品企画の手法を体系化した「商品企画七つ道具」を発表(1994年)、実践応用に邁進しながらも次々に手法の開発や改良に努め、神田ゼミを成城大学随一の存在に育て、有名企業との産学協同研究やコンサルティングに現在も休みなく奮闘しています。

03-6280-4312平日10:00~18:00