BtoB業界の商品企画への提言

BtoBはBtoCよりはるかに大きい

BtoB(Business to Business、B2Bとも書きます)はBtoC(Business to Consumer、B2Cとも書きます)に比べると広告宣伝が少なく、一般消費者の目に触れる機会が少ないため、目立たないです。

例えば毎年の大学生の就職希望先ランキングを見ると、上位100社の内2/3~3/4はBtoCです。学生の勉強不足という面もありますが、知名度が低いためやむを得ないところです。

しかし、経済産業省発表の「電子商取引(EC)に関する市場調査」では、2018年におけるBtoC(EC限定)の市場規模は18兆円、BtoB(EC限定)は344兆円です。ECという範囲でも極端な差がありますね。

例えばパソコン1つ取っても、液晶画面、キーボード、ACアダプター、IC部品、使われるOSやアプリケーションなどのソフトウエア、梱包用の資材など、膨大なハードウェア、ソフトウェアの集積です。これらの多くが外部の企業から納入されたものであることはご存知の通りです。部品は勿論のこと、使われる原材料、機械、工具、家具、文具に至るまでBtoBの商品であり、個々の単価も取引量も大きいため、その取引額はBtoCの何倍に及んでも不思議ではありません。

わが国の最大の強みは、このBtoB産業の技術力、生産力の凄さと言って過言ではありません。日本品の品質の良さは周知の通りですが、それを支えているのがBtoBの皆さんの努力です。

     

     

BtoBでの商品企画の必要性

これまで、長い間BtoBでの商品企画はないがしろにされて来た、と言っても過言ではありません。BtoCのように不特定の消費者を対象に広く販売はしないため、広告の必要がなく、また納入先のニーズが明確な場合が多く、それに対応する商品を作って納入すれば良かったのです。つまり、市場調査や分析の必要がなかった、ということです。「(技術的な)開発」はあっても、「(商品の)企画」という概念すらなかったのです。私の考えでは企画=オリジナルなものを自ら企て、計画するという意味ですから、企画は必要なかった訳です。

しかし、ここ20年くらいの間でBtoBをめぐる状況はかなり変わりました。

ネットワークの進歩により情報量が爆発的に増えたため、世界中の経済が流動性豊かになり、取引が多様になりました。買う側も売る側も特定企業に縛られることなく、色々な企業を相手に出来るようになりました。ある日突然聞いたこともないような国や地方の名もない企業から問い合わせや注文が来るというのは珍しくありません。従来は系列に縛られていた企業も、段々とグローバル展開し、他系列にも売ることができるようになりました。

     

    

そのため、従来通りの商品展開では競争に負けることになりかねません。商品企画・開発力が不足する(差別化の不得意な)企業は、売るためには価格を下げ、利益が薄くなる事態に陥ります。もはや、得意先への営業でカバー、という時代ではありません。

また、優秀な社員を確保したい場合、創造的な企画開発を行う社風や実績があれば、それをアピールポイントとしてBtoBにも積極的な若者が集まるようになりつつあります。これはやはりネット社会のありがたみです。

つまり、BtoBでもBtoCと同じように商品企画が必要です。

   

BtoCとはここが違う

ただし、そうは言っても現実はそう簡単ではありません。次のような問題があります。

1.取引する顧客が企業であるため、一般消費者に比べて圧倒的に数が少ないです。市場調査と言っても、取引先が数社~数十社といったこともよくあります。データを集めるのも困難です。

2.扱う商品が性能・機能・価格重視のため、検討対象範囲が少ないです。そのため、アイデアも広く出にくく、新商品企画が難しくなります。

3.従来納入先からの依頼で多くの商品を作ってきたため、発想の枠が狭く、技術者視点から抜けきれない面が強いです。

     

発想を変えよう!!

従来のBtoB企業の商品企画の多くは、下図のように、顧客(納入先企業)からの依頼に基づいて技術的検討を行い、答(ソリューション、特に製造可能性に関する)を導くという形式でした。この場合、アイデアは顧客が持っており、エンドユーザー(一般消費者)への調査も顧客が行っているはずです。しかし、大きな問題があります。

  • 顧客は実はエンドユーザーへの調査や考察を十分に行っていない(エンドユーザーが欲しいものを分かっていない)ことが多いものです。
  • 顧客のアイデアは不十分で、画期的ではないし、検証されていないことが多いものです。

つまり、顧客はきちんと商品企画を行っていない可能性が高いため、残念ながら「売れない商品」の一部を開発依頼するのです。顧客に売ってしまえばそれで良い、という訳にはいきません。次の安定的な受注に結び付きませんし、いつも右往左往し、開発に掛けた労力や費用がムダになってしまいます。下手をすると在庫の山を抱えることになりかねません。

     

<BtoBの商品企画(従来型)>

  

   

今後は下図のようになるべきです。

BtoB企業が顧客に先んじてアイデアを創出し、エンドユーザー(一般消費者)にアクセスし、自社商品を取り入れた完成品イメージを提示します。そこから必ず売れる最適案を抽出し、それを顧客に提案します。つまり、「当社品をこのように使った最終商品を発売すればこのように売れる」と提示するのです。BtoBtoCというべき流れです。
最初は顧客に「はあ?」と思われるでしょうが、顧客も新提案によって売上げが上昇することが検証されれば、必ず喜んで採用するはずです。

<例>

1.缶メーカーが画期的な缶を発案し、エンドユーザーに調査し「そのような缶に入ったドリンクなら(従来品よりも)買いたくなる」ことを証明し、ドリンクメーカーに提案します。

2.自動車のブレーキメーカーが性能(安全性)・耐久性に優れた新型のブレーキを考案し、「このようなブレーキを搭載した安全性抜群の自動車」はエンドユーザーの購入意向が極めて高くなることを立証して、自動車メーカーに提案します。

3.花をホテルに納入している会社が、沢山の花を使った新発想のウェディングを行うことにより、そのホテルで挙式したくなることを未婚男女へのアンケート調査で立証し、ホテルに提案します。

    

        

<BtoBの商品企画(今後)>

     

そのやり方は?

おわかりの通り、エンドユーザーの意向を汲み取り、仮説を検証していくのですから、Neo P7をそのまま使えば良いのです。大きく異なるところはありません。対象者は多数いて、いくらでも調査できます。

ただし、BtoCと異なる注意点として次のようなことが挙げられます。

1.購入意向にはデザイン、ブランド、価格などが大きく影響します。例えば前記の缶が、誰もが知っている***Colaである場合と、無名小メーカーのサイダーである場合は同じ仕様の炭酸飲料缶であっても、購入意向に最初から大きな差が出ます。調査する場合に、条件をきちんと揃えて、従来品との差が明確になるようにしなければいけません。 

2.市場調査などの経験の乏しい(または皆無の)社員が多いため、エンドユーザーとのコミュニケーションや調査実施がうまくいかないことが多いです。これは手前味噌ですが、JMLAのセミナーへの参加が強く望まれます(6ヶ月コースや社内研修のようにガッシリしたものが最適です)。

3.長い間に「受身」体質になってしまっているため、自ら新商品を創り出そうという風土がないことが多いものです。特に管理職、経営層が発想を大きく変えないといけません。その場合、JMLAを通じて全社的な講演会を開催して、眠りを覚ますことが最適です。

    

それでも難しい商品?

そうは言っても、エンドユーザーと縁のなさそうなBtoB商品もあるかもしれません。
その場合、調査対象を固定的に考える必要はありません。いくつか例を挙げてみましょう。

①スプリング

そのスプリングを使うとイスやベッドが快適になり、疲れにくくなりませんか?するとそれらの家具を購入したくなりますね。これはエンドユーザー対象に調査できます。

②工具

その工具を使うと切削や研磨の精度が上がるとしたら、完成品の故障がなくなったり、使用感が良くなりませんか?エンドユーザーが無理ならば、その工具を使う工程の製造担当者をユーザーとして意見を集約するのです。

③オフィス機器

オフィスの機器を変えると仕事の能率が上がり社員の意欲が上がりませんか?この場合、使う社員をユーザーとして調査すればよいのです。

    

要はターゲットを柔軟に捉えて、しっかり調査し、定量化(数値化)することがポイントなのです。最初から無理、とあきらめてはいけません。

系統的な「商品企画」にご興味をお持ちの方は、無料セミナーにぜひご参加ください。お待ちしております!

     

産学協同で学生を交えて企画してみたいという企業様は、こちらから気軽にお問合せください。

       

        

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神田範明

一般社団法人 日本マーケティング・リテラシー協会 会長、成城大学 名誉教授
専門分野:商品企画、市場調査、経営統計学、品質管理。 1949年8月生まれ、東京工業大学工学部経営工学科卒、同大学院修了。 その後名古屋商科大学に勤務し、企業での商品開発に関する品質管理の体系化や学生指導の必要性から商品企画の世界に入りました。 1993年成城大学教授となってからは商品企画の手法を体系化した「商品企画七つ道具」を発表(1994年)、実践応用に邁進しながらも次々に手法の開発や改良に努め、神田ゼミを成城大学随一の存在に育て、有名企業との産学協同研究やコンサルティングに現在も休みなく奮闘しています。

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